いつだって、首にかけているそれは、今も其処にある。


大して重くないはずなのに、括りつけた革紐が、ずしりと項に食い込んでいるようだった。








黒いシルエットが、交差している。


ダンスをしているように見えるほど、近くにある体と体。


それは、いつかの海の見える丘の上の公園で見た光景と、酷似していた。


「いば、ら・・・・・・?」


一方から突き出された右腕。


それは、他方の体を貫き、背中の向こうで宙を掴んでいた。


ぎり、と。


歯を食い縛る音が響く。


「お前達も、不幸な体だよね」


嗤う喉で紡がれた声が、冷たい空気を伝って響いた。


まるで蜘蛛の巣がはっているように、聞きたくないと願っても、こちらの聴覚を捕らえる。


「どれほど苦痛を味わったって、死ぬことが出来ないんだから」


ぐるり、と。


地面を向いていた右の掌が、天井を向いた。


「っ」


口から、零れた血。


それは月光に照らされて、嫌というほどその紅さを見せ付けてくる。


「早く楽になりたい?それなら、居場所を教えてよ」


蜘蛛が体を這っているように、その声は体を浸食した。


逃げられない。どうしようもなく、捕らえられている。


「や、めて・・・・・・」


自分の声が、ひどく遠く感じた。


乾いた喉で、唇で。


届かないと知っていて、それでも言う。


「やめて・・・・・・!!」


それが合図だったかのように、ずるりと腕が抜かれ、片方のシルエットが地面に崩れた。


響く嘲笑。


それに抗えない崩れた体は、微かに動いてこちらを見詰める。


苦痛を抱えて尚、その深い紫はこちらを気遣う優しさを湛えていた。


「イバラ、イバラ、」


大丈夫、と聞こうとして、その言葉は何の役にも立たないから呑み込む。


代わりに、繋がれていない左手で首からかけて胸元にあるそれを握り締め首を横に振った。


それはもう、必死に。ただひたすら、祈るように。





いだから、生きていて






わたしは此の判断を、決して後悔していない。





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