思い出すのは、桃色の象の滑り台がある公園の隅に咲いていた姿。







02 : 蒲公英





「タンポポって、冬にも咲くのか?」
「実際咲いてるから、咲くんじゃない?」
「そりゃそうだけど」


アスファルトの隙間から咲き誇るその黄色い花に目を留めた彼女は、そちらへ近付きしゃがんで覗き込んだ。
隣を歩いていた彼も、それに倣う。

息を吐くと、それは白くなった。
そんな冬の午後。


「ダンデライオンって、フランス語が由来なんだってな。ダン=ド=リオン。葉が、ライオンのギザギザの歯に似てるから」


再び隣にきた彼の顔を見て、彼女は指先で葉をなぞりながら言った。


「知らなかった。花が鬣に似ているから、ライオンの名前を持っているのかと」
「あいつもそうやって言ってた」
「・・・それは光栄」


茶化すように言い、彼は笑む。
そして、同じように指先を花へ近づけると、花弁の下、大輪に開く黄色を支える部分を示して言った。


「反り返ってないから、これは西洋タンポポ」
「へぇ」
「日本に昔から居るタンポポより、西洋タンポポの方が逞しいらしいよ」
「ふぅん」
「高校の中庭に咲いてるのを見て、あいつが言ってた」


落ちる沈黙。
それはいつもの事で、お互いそれを壊す必要を感じていなかった。

だから、黙って黄色い花弁を見詰める。


数分後、寒さに負けたのだろう、彼女が大きく息を吐いて立ち上がった。
それにつられて彼も立ち上がる。

彼女の頬も鼻も真っ赤だった。
それにくすりと微笑んで、彼は自身の首に巻いていたマフラーを、肩へ落ちる黒髪が隠す彼女の首へ掛けてやる。


「行こうか」
「うん」


右手を差し出そうとして、けれど彼はそれをポケットへ押し込んだ。
その手を引くのは、決して自分の役目ではないから。







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