under the blue blue sky






「じゃあ、いっくん」


彼以外に与えた、初めての名前。
予想外だったのだろう、つけられた渾名に目を丸くした狐モドキは、けれどすぐに笑みを浮かべた。


「まりあさん、実は普通の女子高生なんですね」


条件反射で、上履きの黄色いゴムの部分を踏んでやった。





彼女に話しかけたのは、置いてきたあいつになんとなく似ていたから。
ただ、それだけ。







「そんなに威嚇しないで下さい。
 俺には、前に居た場所においてきた、大事な子が居るんですから」


そう言って、少年はにこりと笑んだ。
その言葉に、自分の顔が余裕を失っていたことに気付く。


数えるのも億劫なほど年下の人間に、いとも簡単に自制を失った自分に苦笑した。
それから、それに気遣える少年への評価を改め、椅子をすすめる。


「お茶を淹れるから、少し待っていて貰えるかな?甘いものは大丈夫?」


尋ねると、少年はにこりと笑んで大きく頷いた。
その様子に完全に毒気を抜かれ、ゆっくりとした足取りで台所へ向かいながら、
どの茶葉を使うかを考えたのだった。







彼らの関係は、ひどく危うく見えて。
けれど確かに、その家は居心地が良かった。








「わたしは、彼が要らないって言うまで、彼の為に生きるだけだよ。

 他に存在理由を知らないから、その後の事は、よく分からない」






「閉じ込めて大切にすることが、慈しむっていう事じゃないのは知っているんだよ。

 ねぇ、僕は、マリを解放した方が良いのかな」







どうしてだろう。
お互いのことを想っているのに、其処にずれがあるのは。


悲しいな。








「まりあさん、俺とキスしてみる?」


「・・・置いてきた大事な女の子は?」


「それはそれ、これはこれ。何か見えるものがあるかもしれない」


「・・・その子、ヤキモチを妬かない?」


「バレなきゃ大丈夫」


「・・・じゃあ、一度だけ」


ぶつかる鼻の先。混ざる呼吸。震える睫毛。


「他の人のキスを、知りたいの」


そっと唇を合わせる。
ゆっくり離れて瞬きをした拍子に、水が一粒、頬を滑った。





意地っ張りの彼女と、優しすぎる彼。
おかしなあなた達と、出会えて本当に楽しかった。






幸せに、どうか幸せに。


僕の祈りは、届くだろうか。













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